子どもたちの心に彩り豊かな原風景を
東京ガレージ代表 よしおか ゆうみ
私が子どもを取り巻く人たちのコミュニティや自宅開放を始めた理由は、「人生の支えとなる、子ども時代の心の原風景を残したい」という強い想いです。喜怒哀楽が豊かに詰まったあたたかい想い出を子どもたちの中に残したい。それは、いつの日にか自然と心から湧き出ていたように思います。

幼少期の想い出
私自身、幼少期を茨城県日立市の社宅で過ごしました。隣近所は、家族同様。鍵が開かない日は、ご近所のドアを叩いて、よく居させてもらったものです。明るく開放的な両親のもとで育ち、家にはいつも、若い人やカップル、夫婦や家族、外国人など様々な人が出入りしていました。海と山に囲まれ、毎日、日が暮れるまで遊んだ想い出は、まるで宝箱の中にしまってあるチョコレートの包み紙のような甘く切ない懐かしさ(古い?笑)にあふれます。
人生を支えてくれた”ふたつ”のこと
成人した私は、予想もしなかった波乱に富んだ私生活を歩むことになります。一方で、幼児教育への情熱が叶い、東京都の公立幼稚園に長年携わる傍ら、乳幼児期から自立までの経年研究にも取り組みました。公務員を辞してからも様々な保育・教育現場に関わらせていただいています。独立後は、心理学を学び直し、思春期相談・家族カウンセリングの仕事を本格的に始め、10代・アスリート・家族・カップルや夫婦などたくさんの個人的な課題に向き合ってきました。
そんな中でご縁がご縁を呼び、主に家庭の事情で親子関係が難しくなった思春期のお子さんを里親のような形で一定期間お預かりするようになりました。常に新しい家族の一員となった子どもが家の中にいる、さらに様々な人が一緒に関わりつながっていく…というなんともカオスな生活に、運命の不思議さ面白さを感じます。
私の人生の荒波を支えたのは、ふたつの柱。ひとつは、ライフワーク?天職?というのか…パワーあふれる子どもたちに寄り添う、充実感に満ちた仕事=暮らし。もうひとつは、心の中で静かに穏やかに「私」を包んでくれる幼い頃の風景です。

苦しいとき、落ち込んだときのエネルギーの源
思春期までの想い出は、大人と比べものにならないくらい深くアイデンティティに影響を与えます。それは、大人になったときに気づきます。私もそうでした。自分ではどうしようもない、コントロール不可能な人生。耐えられないようなアクシデントも起きます。
人生のどん底のような時期に、暗闇の中でじっとしていると、やがてそれは、穏やかな風景へと変わり、子どもの頃の想い出がよみがえってきます。もう一度生きるエネルギーを与えるかのように、今の苦しみを癒していきます。そして、穏やかになった心の中には、出会った人や支えてくれた人たちの顔が浮かび、感謝の念に包まれ、いつの間にか意欲が復活しているのです。
未来がどんな状況でも子どもたちには生きる喜びを失わずに生き抜いてほしい。そのためにも、子どもが自分の意思で、自分の感覚や感情を伴った豊かな直接体験をする場や機会を保証しなければならないと考えます。子どもたちの人生を支える生き生きとした想い出は、未来に、ではなく、「今、ここに」必要だと思うのです。子どもの「今」を奪ってはならない・・・と。
「よるのがっこう」ってなんだかワクワクする!
10代の無料相談をはじめたり、多くの子どもたちと生活を共にしたりする中で気づいたことがあります。それは、夜に深刻な相談が増え、夜にSNSでのいじめが起き、夜に家族と衝突し、夜に活動的になる、という傾向です。

そこで「よるのがっこう」を思いつき、早速、東京ガレージを一緒に始めた菊池宏子、林敬庸に相談し、構想を練りました。一緒に仕事をする仲間には、変わった面白い大人が多く、枠にとらわれない柔軟な考え方をする人、クリエイティブな仕事に携わる人が多くいます。そんな大人と10代が出会い刺激し合えたら、双方にプラスの反応が起きる!と考えるとワクワクしかありませんでした。
そんな中、たまたま地元の子どもたちに誘われて荒川区の伝統工芸展に出かけ、そこで素晴らしい伝統技術を引き継ぐ若い職人さんたちと出会ったのです。本当に良いものをいかに新しく生まれ変わらせることができるか、と真摯に話す彼らの空気感は、凛としたカッコよさがあり、子どもたちに人生の先輩として良い影響を与えてくれることを確信しました。そして、よるのがっこうのメンバーとして協力してくれることが決まり、とてもうれしく誇らしい気持ちです。
食卓を囲むという意味
誰もが思い出すことの一つに、食卓があります。基本的な生きる欲求を叶える食事には、「あなたは生きていいよ」「あなたの命を愛していますよ」という肯定的なメッセージが込められているからではないかと思うのです。そんな食卓をよるのがっこうでも大切にしたいと考えました。
食事をして、お腹が満たされてくると、人は、余裕をもって思索することができます。そこで生まれた「対話の食卓」。何かしらテーマを決めて狭く深く自分を掘り下げてゆく、と同時に、人の考えにふれ、枠を広げていく作業。それは、自立前の青年に必要な「哲学する」という大切な時間でもあり、大人にとっても固く凝り固まった頭と心をほぐす絶好の機会となります。

頭と身体を連動させる体験でのみ自分自身を知る
私たちは、なるべく直接人とふれあい、体験する機会を子どもたちに提供したいと考えています。人のもつ熱量や感情は、実際に近くにいないと感じにくいものです。その場の空気感や仲良くなる時の共鳴感覚などは、オンラインでは掴めません。特に仲間を求める世代の子どもたちにとっては、コロナで実際に人に会えない生活が孤立感を強めているのではないかと思います。
※ 九州大学 学生生活に関する学生アンケート 2020.8
音楽業界の友人が「ライブとオンラインでは天と地ぐらい違いがある」と言っています。音の振動や情熱は、生演奏でこそ伝わってくるもの。よるのがっこうでは、ワークショップも開催しますが、イメージを形にする作業を実際に自分の手を使い、実現します。失敗してもすぐに消してやり直せるアプリも便利ですが、その分、集中度、真剣味が違ってきます。
人は、出会いや体験によって自分を知ることができると言われています。実際に頭と身体を使って新しいことに挑戦するとき、子どもの中に新たな扉が開きます。得意なこと、夢中になること、弱味、性格、人と関わる時のくせ、など、多様な出会いや体験は、自分を見つめる好機会です。これからさらに増え続ける情報、その中から取捨選択しながら生きていく子どもたち。自分自身を俯瞰する力は、必要不可欠になってくると思います。
日本全国に広がれ!よるのがっこうプロジェクト
よるのがっこうでは、通える範囲の地域に住む子どもたちに来てもらい、行き帰りの負担やリスクをなるべくかけたくないと考えています。その地域や土地のもつ特性は、そこで育つ子どもたちにこそ伝えたい、ということもあります。自分の暮らす街に愛着をもつことも、原風景につながるからです。
そのためにも、ここ東東京にある東京ガレージでプロトタイプをつくり、その土地のよさを生かしたよるのがっこうを全国に展開できる未来をめざして、今を大切に、関わる誰もが楽しい思いをもてるカタチで継続していうと思っています。

さいごに・・・
ビジネスに縁も才能もない私は、頭をぶつけて立ち止まってばかりですが、コアメンバーや身近な仲間の専門性と知恵で危機を助けてもらいつつ、なんとかスタート地点まで辿り着きました。
また、忙しい中で「ぜひ、よるのがっこうに関わりたい」と表明してくれた素晴らしいメンバーのみなさんには、感謝しかありません。関わってきた人たちに恩返しすることも、残された人生の大きなテーマです。
長い想いを最後まで読んでくださったみなさま、そして、多くの友人たちの力強い応援には、深く感謝いたします。これからの道のり、何かしらいつものごとく、予想外の展開となる予感も大いにありますが、そんなこんなも笑いながら見守っていただけたら幸いです。
東京ガレージの新プロジェクト「よるのがっこう」をどうぞ身近な人に拡げていただき、10代の子どもたちにもつなげていただけますよう、よろしくお願いいたします。